それでもやがて免疫系が追いついてきて、彼らを制御下においてしまう。 しかし、新しい突然変異体はなおも生じ続けており、この過程は何度も何度も繰り返されることになる。
このウイルスが感染して破壊するCD4T細胞は、まさしく、B細胞が抗体をつくり、T細胞が突然変異体ウイルスに感染した細胞を殺すという行動をとらせるために絶対必要な細胞なのである。 このため、体は下降スパイラルに陥ってしまう。
やがてCD4細胞の供給が底をつき、その結果起こる免疫欠乏のなかで、突然変異体ウイルスが暴徒と化すのである。 潜伏期の大部分において、血液中の感染したCD4細胞の数は割合に少ない。
しかし、血液はCD4細胞の主な居所ではなく、血液はCD4細胞がある場所から別の場所へとゆくのに利用するハイウェーにすぎない。 血液を見ながらいくら感染の瞬間写真を撮っても、他の場所で起こっていることを正確に反映するとは限らない。

HIVの工場はリンパ腺にあり、そこでは早い段階から一000億(皿)という信じられないほど多数の新しいウイルスが毎日製造されているのである。 CD4T細胞は通常はリンパ腺に集合しており、そこで他の細胞と相互作用して、免疫ネットワークの円滑な機能にとってきわめて重要なメッセージの受け渡しをしている。
これら他の細胞のなかにも、マクロファージ(大食細胞)や樹状細胞のように、細胞表面にCD4分子をもっているものがあり、HIVに感染することが起こりうる。 これが起こると、彼らはHIVの貯蔵所の役をつとめるようになり、彼らが接触するどのCD4細胞にもHIVを手渡すため、ますます広範に感染を広げることになる。
あれやこれやのやり方で、このウイルスは毎日およそ一0~二0億のCD4リンパ球、体内にあるCD4リンパ球総数の約三0パ‐セントーを破壊する。 最初はこの損失は骨髄でつくられる新しい細胞によって償われるが、やがて需要が供給を上回ってしまうのである。
この状態は、水が蛇口から流入すると同時に排水口から流出している洗面台にたとえられる。 流入量つまり骨髄から供給される新しいCD4細胞の数が、流出量つまりHIVに殺されるCD4細胞の数に等しく保たれている限りは、正常のレベルが維持される。
しかし骨髄消耗のために流出量が流入量を越えるや否や、CD4細胞の数は減少し、続いて免疫欠乏が起こる。 免疫機能に不可欠の細胞がこのように毎日莫大な数の損失を被っていることを考えると、免疫欠乏とエイズが引き起こされるまでに大変長い時間(平均一0年)がかかることはまさに驚きなのである。

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